土井 昭の 大怪我からのSDA in 王滝100kmへの挑戦 VOL.6

CP3~ゴール 約21km

 

コースプロフィールではゴールまで約半分が下りの区間。何度も我慢してきたがそれもあと僅か! 「頑張れオレ!」 おそらく参加者のほとんどがそう思ったに違いない。
ちなみに高低表は標高差約700m距離約100kmを4.5×12cmほどに縮尺しているので小さいアップダウンに見えても実際はかなり大きい。何度も何度も「あとちょっと!…あれ?まだ登る?」を繰り返してきたがここも同じでした。

CP3から気合いで一山超え気持ちよく下ると次はゴールまでの最大の山場が待っていた。 登り返しにビビりながら下ると急に停車しているライダーとカラーコーンがコースの真ん中に。 「ん?」と思い減速すると左へ鋭角に曲がった登り返しが待っていた。
こ、これはなかなかキツイぞ…。
路面は石と砂が多く角度もある。急いでギヤをローに落とし 最後の最後でこれは…、心身共に限界を感じつつ使える筋肉を探し色んなポジションでペダリングするも進まない。 右腕のシビレと右の腰痛がひどく力が入らないので比較的フレッシュな左足をフル稼働させる。座り込んでいるライダーや押し上げているライダーをゆっくりと抜かすが声を掛ける元気がない。 ボトルを取るのも体の痛みと傾斜のせいで苦労するため1度で多く飲んだりしていた。

やがて傾斜が緩くなり時間とコースプロフィールの位置を再確認。
「あれ?めっちゃ頑張ったら8時間半に間に合うかも?」思考能力が低下しているため適当に計算したが可能性がありそうな気がする。
それにしてもメッセージの「と」の部分がどうなってるのか見えない!! 登ってる?平地?それとももう過ぎた?何度見ても振動と視力低下で見えず応援メッセージにも関わらずイライラしてしまう。
父親失格ですよね~。(笑 )

「まぁええか~、あとちょっとやし!」そう思った瞬間、切れていた集中力のチャンネルが「レース仕様」に入ったのを感じた。 自然と体が前のめりになり生きたペダリングができる。うまい具合に強めの追い風が吹いてきて登りにもかかわらずグングン加速していく。「この風は8時間半切れってレースの神様が言うてるな~!」と普段は神様を信じてないのに都合よく考える。
ここからは苦しさもあったが心の底から楽しかった。 数回のアップダウンを繰り返すが体の痛みも忘れ(もっと前からそうなれよと思ったが)攻める。登りで何回も自分をパスしていったライダーを逆に勢いよくパスしていく。 心拍数も限界に近い状態でのロングスパートだったがここでも王滝は甘くなかった…。

いよいよゴールへ

ここでもコースプロフィールの見た目以上にアップダウンの繰り返しが多い! 「最後の下りか!?えっ?また登り?まじか~!?」を数回繰り返し足がパンパンになり集中が切れかける。 「どうせまた登るんやろ?」と少し人間不信のような感情になっていたが「今度は下りが長いような… 間違いない!最後の下りに入った!」そう思った瞬間さらに集中力が上がったのを感じた。 どんどんペダリングし加速しギヤが足りなくなると小さく伏せて路面にプッシュを入れる。 石は変わらずゴロゴロしているが自分のライン上はすべてクッキリ見える。 これには自分でビックリ!この瞬間は視力が2.0に戻ったかも?(笑)
落車もパンクもする気がしないしクロカンポジションのバイクも思い通りに動く。 木の枝はヘルメットのバイザーで弾きラインを外さない。 他のライダーはみなさん左を走ってくれていたので「右行きまーす!」と叫び何人もパス。 ついにみんなのブログで見た左コーナー入口の「まもなくゴール徐行」の看板がみえたが「すいませーん! 必ず急ブレーキで止まるんでこのままいきまーす!」と自分勝手にゴールへ入り急ブレーキ。 もちろんスタッフの方が慌てて「ストップー!!」と止めにきました。 申し訳ありません。

ゴール左側にタイムが表示されている。

8:28:11 390位

「やったー!8時間半切ったー!マジ嬉しい~!」
第2目標クリアーの瞬間です!
今までには経験のない順位よりも自分で設定した目標タイムを超えた嬉しさを味わいました。 準備からゴールまでを初めてながらも現状ではほぼ完璧にできてのこのギリギリのタイム。 自分との勝負に勝てて嬉しかったと同時に我ながら絶妙なタイム設定だったなと…。

そう思っていると先にゴールした仲間たちが来てくれた。「あ~やっぱり負けたか」と思いましたが次の瞬間には「ホンマにお疲れさま!」と心の底から思いました。

増田選手のタイムは 7:47:54 285位で約40分差。完敗でした~。(笑)
本人いわく「20年以上自転車しててこの1カ月半が1番自転車に乗りましたね。(笑)」
特に短距離の身体つきの2人にとって、王滝に向けて本気で練習や準備をしてきたのでその成果でしたね。

レースの余韻に浸りながら皆で話が盛り上がる。やっぱりみんな何度も限界を感じたらしく、ほとんどが辛かったエピソードだがそれが皆で共感できて笑いが起こる。(笑)

ゴールから駐車場まで約5kmほど下るが松原スポーツ公園のほんの少しの登りが辛い!
ここで31年自転車競技をしてきて初めて股ズレを起こしていることに気付く…。
前のめりのロングスパートが原因か…?
それからの後片付けは体がいうことを聞かずシューズを脱ぐのも大変でした。

ピカピカだったGIROのシューズも良い感じにドロドロに。超ロングライドにも関わらず痛みもなく快適に過ごせました!でも正直ソックスはHRCteamにしたらよかったかも。
同じシューズのライダーも多く見かけ紐靴のサイクリングシューズの人気を見た。

こちらもドロドロになったLEZYNEの1.75LのXL-CADDYサドルバッグは大活躍!背中に背負うはずの補給食や工具類など満タンに入れて走り切りました。
今回ノートラブルで走り切ったので携帯工具類は使いませんでしたが、MACRO GPSのおかげで色んな情報が分かり気持ち的にも楽しめました。

撤収準備が終わると「家に着くまでがレースやから気を付けて帰ろう!」といつもの感じで帰路につく。

ありがとう、王滝!

そしてその後

数年前から出場してみたかった王滝100kmでしたが実際にスタート地点に立ったときは不思議な感情になりました。本当にここに立ってる…。

BMXで大怪我し立ち上がるリハビリから始まり、車椅子に乗れて喜んでいたのが昨年の9月の王滝の頃。 9王(秋開催の王滝)にエントリーしていたが参加できず、BMXのジャパンシリーズ後半戦ももちろん不参加になり辛い日々でした。主治医からも「奇跡的に麻痺がないから普通には自転車に乗れるようになるよ。BMXはちょっとどうかな~?」と言われたときもあった。
そんなときに希望が持てたのは仲間や家族、そして病院のスタッフの皆さんの支えでした。
今回の王滝の完走は自分の中では「みんなのおかげでこんなに元気になりました!ありがとうございました!」の意味もあります。 怪我は辛い事ですがそれによってまた違った自転車の楽しみ方を知れて充実した日々でした。これからもBMXやMTBに乗ってたくさんの出会いや経験を楽しみたいと思います。

最後にこのレポートを終えて僕の王滝へのチャレンジは終了とします。 これまで支えてくれた皆さん、一緒にチャレンジしてくれた仲間たち、長文を最後まで読んでくれた皆さん(笑)、本当にありがとうございました!そしてこれからもよろしくお願いします!

土井 昭

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土井 昭の 大怪我からのSDA in 王滝100kmへの挑戦

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