ENVE JOURNAL Vol.10 1166本のプロトタイプ M SERIES
この数字が極端か大袈裟に感じるようなら、それは気のせいではありません。私たちですら、製造チームがそのデータを見せてくれたときに、とても多いと感じたくらいです。エンヴィが製造するすべてのリムには、「トラベラー」が付き添います。これは、リムの家系図や出生証明書みたいなもの。それぞれのリムはこのトラベラーを持ち、そのリムが在庫管理システムに記録されるまで、どのような道筋を歩んできたのか、知りたいことすべてがわかります。データは嘘をつきません。
1166という数字は、最新のM Seriesを販売するまでに作製したプロトタイプのリムの本数です。
いかにしてその数字になったのでしょうか? 説明していきましょう。
M Seriesは、こんな場所をこんな風に乗りたいというさまざまな希望に応えるべく開発されました。ラインナップは以下の通りです。
ご覧の通り、あなたのまさにしたい走りができるモデルが用意されており、ここまで細かいラインナップは他社にはありません。
次に、数字について紹介します。
M Series
- ベースモデルは4種類(M5、6、7、9)
- モデルは全部で8種類(M525、M630、M635、M640、M685、M730、M735、M930)
- モデルごとに2種類のホイールサイズが用意されるため、全部で16種類
- モデルごとに平均で12本の構造別プロトタイプを作製
- 各プロトタイプの作製本数 6 x 構造別プロトタイプの作製本数(平均) 12 x 全種類 16 = 1152本
上の計算式からこの数字が求められ、最終的にはM Seriesが誕生。
プロトタイプの作製
M Seriesの形状が最終的に決まるまで、実に多くの形状が生まれました。そこで、最終的には採用されなかったものの、それぞれのM Seriesに落とし込まれたテクノロジーのきっかけとなった形状をいくつか紹介しましょう。
「T バード」リム
うまく行った点
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- 片側の耐衝撃強度 –
- コンプライアンスに優れるシングルウォール構造ゆえ、このリムは片側の耐衝撃性に優れていました。エンヴィが行なった片側の衝撃テストでは、岩や木の根との衝突を再現してリムの片側のみに衝撃を加えました。このリムは衝撃が加わると、ダブルウォール構造より効果的に変形して衝撃を逃します。
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- チューブレスタイヤのリム打ちパンクのリスク軽減
- このリムは、ワイド・フックレス・ビードを初めて採用したプロトタイプでした。なお、このビードはM525とM6 Seriesの最終デザインに採用されました。
うまく行かなかった点
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- 両側の耐衝撃強度 –
- もっとも期待が寄せられたこのリムのプロトタイプは、過去のM90 DH リムと同程度の重量になったものの、両側の耐衝撃強度はトレイルライドに適したレベルしか達成できませんでした。なお、両側の衝撃テストは、ジャンプで飛距離が足りなかった際の衝突や重力が急激に掛かる状況を再現します。このデザインは、クロスカントリーやトレイルライドで使うには重すぎ、エンデューロやダウンヒルで使うには強度が不十分でした。
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- ハンドリング特性 –
- このリムの重さでは、エンヴィが求める精密なハンドリング性は達成できませんでした。その特性を達成するには、重量をさらに増やさなければならず、ライドクオリティーは低下してしまいます。
- 耐リム打ちパンク性能 –
- ワイド・フックレス・ビードはクロスカントリーやトレイルライドで使う分には十分ですが、過酷なエンデューロやダウンヒルでは有効なプロテクションを発揮しませんでした。
主にわかったこと
シングルウォールデザインにはメリットがあれど、オールマウンテンカテゴリーに求められる基準は満たせません。主にトレイルライド、そしてオールマウンテンライドを少し楽しむ程度が最適の用途のようです。
M Seriesに採用されたもの
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- リムの外縁形状の厚みを増やしたことで、クロスカントリーやトレイルライドでのリム打ちパンクのリスクを軽減できることがわかりました。
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- 社内のテストライダーは、M70 HVよりこのリムのライドクオリティーを好みました。これにより、M Seriesはこのリムのコンプライアンスを満たすことが条件となりました。
「バンパービード」リム
うまく行った点
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- タイヤとリムのプロテクション –
- 衝撃を加えるとリムの外縁部が凹み、リム構造とタイヤの大部分を守ります。
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- 耐リム打ちパンク性能 –
- ビードが凹むため、タイヤがリムに挟まれたり、サイドをカットされることはありません。
うまく行かなかった点
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- 重量 –
- ダウンヒルでしか使えないほどの重さになりました。
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- 外観 –
- カーボンリムに欠けや凹みがあるのは好ましくありません。
主にわかったこと
これらのプロトタイプは、ワールドカップのダウンヒルレースのために開発され、実戦投入してテストを行いました。リム打ちパンクはなくなり、リムがひび割れる代わりに凹むことで、損傷したカーボンファイバーの広がりを軽減させることに成功しました。
M Seriesに採用されたもの
耐リム打ちパンク性能を高めようと決心しただけでなく、リム打ちパンクをなくすことが実現可能であるとわかりました。
「フレックスウォール」リム
うまく行った点
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- 重量 –
- フレックスウォールリムは、非常に軽量な構造が可能になります。
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- ライドクオリティー –
- このプロトタイプは、加速感、路面追従性、コーナリング、ブレーキング、快適性に関して、テストライダー全員から高い評価を受けました。
うまく行かなかった点
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- 耐リム打ちパンク性能 –
- カーボンを明らかに、あるいは実際に有効となるよう意図的にしならせることはできませんでした。
主にわかったこと
カーボンのしなり量を自社で調整しても、リム打ちパンクの軽減には不十分でしたが、ここから他の素材やリム形状へと焦点が移ることとなり、結果的に目標の達成につながりました。
M Seriesに採用されたもの
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- このデザインに用いられたカーボンラミネートは、最新のM Seriesに採用されているベースとなりました。
エンヴィは、「fail fast and iterate faster」【速く失敗し、速く(次のテストを)繰り返えす】をスローガンに掲げています。
これは、アメリカ国内生産がなせる業です。
着想から生産までの全行程を社内で行えるため、新製品のためのモールドを数ヶ月どころか数日で作製できます。
できるだけ多くのプロトタイプを作製し、ラミネートを即座に変更することが可能なのです。
このような作業がエンヴィ社内で日々行われており、M Seriesはこうして、最新のマウンテンバイクホイールに求められる性能に新たな基準を設けることができました。
最終的に投入されたテクノロジー
この開発工程の全体で、エンヴィはライドを大きく変え得る2つの新技術に注意を向けました。
ワイド・フックレス・ビード
(M525、M630、M635、M640、M685、AM30、G Series G23、G27、SES 3.4 AR、ENVE 45、ENVE 65に採用)
- 登りでの効率性と下りでのタフさを求めるライダーのための、リム打ちパンクを軽減させる軽量なテクノロジー。
プロテクティブ・リムストリップ
(M730、M735、M930に採用)
- DH規格のタイヤやインサートを使うことなく、リム打ちパンクのリスク軽減に貢献。
- 下り系ライダーやレーサーに最適。
耐リム打ちパンク性能がここまで騒がれるのはなぜでしょう?
まず、ワールドカップに参戦してから約10年が経つエンヴィに寄せられた、破損したリムの大多数に共通する特徴が、パンクにより生じたものだったからです。そして、そのほとんどをリム打ちパンクが占めていました。
タイヤの空気圧を落とすと、リムへの衝撃をもっとも和らげる効果が下がり、リムは衝撃にさらされることになります。
リム打ちパンクのリスクを減らすことで、エンヴィはリムのカーボンラミネートを、耐衝撃強度の向上に振るのではなく、より性能バランスに優れるよう改良できました。加えて、耐リム打ちパンクテクノロジーは、セットアップが面倒なインサートや重すぎるタイヤを不要とし、重量と余計な出費を削減し、より安心してライドを楽しめるようにします。
軽く、スムーズで、速い
新しいM Seriesは、パンクやリムの破損といった問題を解決するだけでなく、ホイールの剛性も向上させます。M Seriesの第1世代では、当時最先端(27.5インチリムが導入されたばかりで、29インチリムはまだまだ普及に至らなかった時代)だった大口径のBoost非対応ホイールのブレース角が好ましくなく、それを補うためにはリム構造をより高剛性にする必要がありました。
現在ではBoost規格が一般的となり、ホイールには以前存在したたわみの問題がなくなりました。したがって、新しいM Seriesの各カーボンリムでは、旧モデルより軽量となるだけでなく、垂直方向のコンプライアンス、つまりは快適性がより高まるよう、デザインを見直しました。
これにより、タイヤの空気圧を適切にセットすると、加速にすぐさま反応し、荒れた路面ではライダーの疲労を軽減させます。次は、タイヤの空気圧を取り上げましょう。
タイヤの空気圧
ズバリ、タイヤの空気圧はすごい力を秘めています。正しくセットすれば、すばらしい走りを実現できます。不適切にセットすれば、走りをまったく楽しめません。残念ながら、習慣なのかやむを得ないのか、いまだに多くのライダーが最適な走り心地、プロテクション、性能に必要な空気圧よりも高い数値にセットして走行しています。
その理由を問うと、たいていは次のような答えが返ってきます。
- 「リム打ちパンクを防げるから」
- 「いつもこれで走っているから」
- 「カーボンリムをぶつけたくないから」
これら3つの答えこそ、エンヴィが耐リム打ちパンクテクノロジー、ワイド・フックレス・ビード、プロテクティブ・リムストリップでサイクリングを変えている理由そのもの。これらのテクノロジーは、リム打ちパンクを防ぐには高すぎる空気圧にセットする必要性をなくし、それを防いでいます。
適切な空気圧にタイヤとリムを守るテクノロジーを組み合わせることで、自信に満ちた走りを体感できます。
まとめ
カーボンマウンテンホイールの市場争いが激化する中、多くのブランドは区別化を図るべく価格や保証で勝負していますが、エンヴィのM Seriesはこれからも、走りを改善させる斬新なテクノロジーをベースに、独自の路線を突き進みます。
M Seriesという水準は、何度も失敗し、膨大な時間をトレイルと研究室でのテストに費やし、1166本ものプロトタイプを作製した末、生まれたものです。
ENVE JOURNAL