ENVE JOURNAL Vol.8 フックレスビード、 その仕組みや対象となるライダー

この記事をお読みになっているということは、フックレスでストレートウォールのリムをお持ちか、どのモデルを購入しようか現在検討中のどちらかでしょう。
しばらくホイールセットを購入していないのであれば、フックありのリムをどうして見なくなってしまったのか、あるいはそれらを採用するブランドがある一方で、ENVEのSES ラインがそれらを採用し、M Series、G Series、SES AR ラインが採用しないのはなぜかとお思いかもしれません。

ここでの目的は、フックありとフックレスビードのクリンチャーリムとの違いを事実に基づいて解説し、正しい情報を知った上で製品を選んでいただく、または毎日使用している製品をより深く理解していただくことです。

まず始めに、基礎をおさらいしましょう。

 

上の図は、リムデザインの進化を左から右に並べたもの。フックレスリムが新しいものではないというのはENVEも理解していますのでご安心を。
ここではリムデザインの歴史全体を紹介する代わりに、チューブレスが圧倒的多数を占める現状でフックレスリムが再燃するに至った要因に焦点を当てていきます。

 

フックビードについて

フックビードのあるリムはクロシェットタイプと呼ばれ、タイヤビードを掴むフックを備え、タイヤに空気を入れてもリムから外れないようにします。このタイプのリム(フックビードありのリム)は、回転質量を減らすために折り畳めないビードから折畳式ビードに移行した1970年代頃に支持されていました。さらに、これらのタイヤはチューブの使用が前提でした。現在の折畳式タイヤのビード素材は固くなく、伸縮することから、フックビードのあるリムを使うことでタイヤビードを掴み、タイヤの脱落を防げます。

フックビードをリムのデザインに取り入れたことで、タイヤが急速に進化し、コンパウンド、カーカス構造、究極の速さから耐パンク性能に至るまでの各種パフォーマンス目標を達成する素材に、焦点を当てられるようになりました。

しかし、サイクリング業界がフックビードのあるリムやそれに合わせたタイヤを開発する中、サイクリング以外の業界はチューブレスタイヤとリムの規格を設けるという反対の方向に進んでいたのです。実際、タイヤ交換などでお乗りの自動車をカーショップに持ち込んだ際、販売されているホイールを見れば、フックビードが採用されていないことに気づくでしょう。サイクリング以外の業界でこのような流れとなったのは、チューブレスタイヤを軸に開発が進んだからです。

下図はモーターサイクル用と乗用車用のリム断面を描いたものです。両者はチューブレス用形状であり、フックビードがないことに注目しましょう。

フックレスこそチューブレスに最適

フックレスについて解説します。あなたが熱心なマウンテンバイカーであるなら、チューブレス化してライドを楽しんでいることでしょう。ENVEのM Seriesや他社のカーボンやアルミホイールセットをお持ちなら、お使いのリムはおそらくフックレスビードのはずです。ENVEは2014年にM Seriesを発表し、全ラインアップにフックレスデザインを採用しました。他のブランドもフックレスリムを展開していましたが、M Seriesの発表により、そのデザインは急速に普及しました。フックレスを採用するべき理由は次の2つです。

  • 1. チューブレス性能の向上
  • 2. リム構造の強化

チューブレスの仕組み

深く掘り下げる前に、チューブレスタイヤとリムの仕組みを理解しておくことが大切です。

ご覧の通り、チューブレスリムではリムとタイヤがしっかりと密着しているため、フックビードは本来の目的を果たしていません。

マウンテンバイク用チューブレスリムを開発していた当時、ユーザーからENVEに寄せられた不満の多くは『バーピング』でした。これは、空気が予想外の場面でタイヤから漏れ、空気圧が急速に失われてしまう現象のことです。

バーピングの発生原因はいくつかあります。タイヤのビードの固さが不足している、およびまたはリムとタイヤのビードシート径が異なっている場合です。これは、チューブレスを使用するロード、グラベル、マウンテンバイクのすべてに言えます。

この問題を解決し、不確定要素の1つをなくすべく、M Seriesでフックレスデザインに移行し、リムのビードシート径をより正確に作り出しました。このデザインを採用したことで、切削した金属製モールドを用いてより精密なビードシート径とビードロックを実現した一方、フックビードには柔らかいモールドを用いてリムから外せるようにしました。この製法は成功でしたが、最終製品により多くの不確定要素が生じ、製造上の無駄が生まれ、仕上げの工程が増えてしまいました。

最初のM Seriesが登場してから5年という短い間に、チューブレステクノロジーは急速に成熟し、気密性とタイヤの保持力に関してタイヤとリムとの接触面に生じていた問題の多くが解決されました。しかし、ロードとグラベル分野では、マウンテンバイクのチューブレスで長い間生じていた同様の問題の多くを解決するべく、業界はいまだに進化し続けています。その一番の問題は、タイヤの保持力です。

では、先へ進む前に、チューブレスの仕組みをおさらいしましょう。

現在のどのチューブレスシステムにも言えますが、タイヤとリムのビードシートは互いに接し、気密性を保たなければならず、これが最終的にはタイヤの保持力につながります。パンクして空気が急速に漏れた場合、ライダーが安全に停車するまで、タイヤはリムのビードシートにしっかりと収まっていなければならないのです。

以下の図は、タイヤを保持するためのフックビードを持たないフックレスリムから、タイヤが突然外れる仕組みを示しています。

リムのビードシート径が正しいのであれば、上図のような状況が発生する原因はタイヤのビードシート径が大きすぎるか、ビード素材がリムとの適度な気密性を保てないためにその径が広がってしまったかのいずれかでしょう。ここに、現在のロードやグラベルのチューブレスシステムが抱える最大の問題があります。
リムブランドはタイヤブランドの開発ペースを追い越してしまっており、最新のフックレスリムを購入したロードやグラベルライダーが困惑する状況が生まれているのです。

 

ENVEはユーザーがタイヤを安心して選べるよう、最新のロード用フックレスホイールセットに適合することがテストで証明されているタイヤのリストを用意しました。

 

ロードやグラベルにチューブレスを選ぶ理由

この時点で、チューブレス性能を優先するのであれば、フックレスデザインを採用するべき理由がお分かりでしょう。チューブレスのメリットはいくつもありますが、おさらいとして、以下にその主なものを示します。

  • 転がり抵抗の軽減による効率の向上(高性能タイヤであることが前提)
  • リム打ちパンクのリスクが軽減し、シーラントがパンク穴を塞ぐ

現在、ロードのタイヤとホイールには次の2つの流れがあります。

  • チューブレス
  • ハイボリュームのタイヤ – 幅は28mm以上と定義

これら2つの流れは、足りない部分を補い合います。ハイボリュームタイヤへの流れは、チューブレスをユーザーに親しみやすいものにし、チューブレスへの流れは、よりハイボリュームのタイヤを見越して、多様な路面に適したより軽量で高性能なタイヤの開発を可能にします。そして、これらの流れは、フックレスリムがロードでハイボリュームタイヤを使う場合に理想的であることを示しています。

フックレスデザインの採用によりチューブレス性能が向上したことに加え、関連するメリットは他にもあります。

まず最初に挙げられるのが、エアロダイナミクスです。

エアロダイナミクス

ENVEは2016年にSES 4.5 ARを発表。これは、チューブレス専用のフックレスビードデザインを採用した、初のロード用ホイールセットでした。このホイールセットのデザインで最も優先したのは、28~30mm幅のタイヤの装着を前提とした際の、25mm幅のタイヤにリムを最適化したホイールとタイヤの組み合わせに匹敵する、総合的なパフォーマンスの達成でした。要約するとフックレスデザインは、そのストレートウォールがタイヤとリムとの接合部における気流をより安定させ、効率を高めたことがテストからわかりました。

デザインから生まれるこれらのメリットと、クラス最高の速さ、安定性、安心感をもたらす操作性で決まるライドクオリティーこそ、ENVEのSES 3.4 ARとSES 4.5 AR ホイールセットがオールロードにおいて疑いの余地のない王者として君臨している理由です。

耐久性とタフさ

M Seriesを初めて開発していた数年前、フックレスのストレートウォールデザインを採用することで、よりタフで弾力のあるカーボンリム構造が可能になることを学びました。フックビードをなくすとカーボンをより自然に曲げることができ、構造が改良されると同時に、外縁形状の素材量を増やし、耐衝撃強度や耐久性を高められるのです。

生産効率

リムの性能とは関係ありませんが、生産効率やサスティナビリティは、フックレスリムの採用で大幅に向上します。

フックビードのあるリムは、タイヤが収まる底部形状やフックビードを作るのに着脱式のモールドを使う必要があります。モールドを使ってフックビードをリムに作るわけですが、フックビードがモールドを固定しているため、リムをモールドから外せません。これを解決するため、1度しか利用のできない、着脱式で柔軟なブラダーを用いた製法を用いています。ブラダーは取り外したのち、リサイクルするために廃棄されます。この製法はリサイクルできる点で素晴らしいものの、ブラダーに用いられる素材の製造にはコストが掛かり、レイアップにより長い時間を要します。そしてリムの成形が終われば、仕上げにさらなる時間が掛かります。
これらすべての工程が積み重なり、カーボンリムの価格が決定されます。さらに、フックビードのあるリムは、フックレスのものよりも欠陥のために廃棄されることが多く、コストがさらに掛かってしまいます。

フックレスリムの生産はこれと対照的に、交換が必要になるまで数千回も再利用が可能な切削モールドを使用できます。この金属製モールドはリサイクルでき、カーボンリムの成形におけるよりサスティナブルな製法です。さらに先述の通り、モールドは切削されているため、ビードシート径などの重要な許容誤差を一定に保つことができ、廃棄量やユーザーが抱える問題を減らせます。これらのメリットに加え、フックレスリムは仕上げの工程がより少なくて済み、欠陥で廃棄される割合が低いのです。以上の生産効率をフックレスリムがもたらす高強度と組み合わせると、埋立地送りになるカーボンリムをはるかに減らすことができます。結局、フックレスリムの生産は、どんな方法よりもサスティナブルなのです。

フックレスに適しているライダーとは

まとめると、フックレスはロード、グラベル、マウンテンバイクのホイールやタイヤの最新テクノロジーがもたらすパフォーマンス面でのメリットを手に入れたいライダーのためにあります。タイヤとリムブランドはフックレスリムでより安全に使えるタイヤを作るなど、協力して解決すべき課題はまだまだあります。しかし、タイヤブランドの多くはSES、G Series、M Seriesのホイールに採用されたフックレスデザインと組み合わせたときに、信頼性と安全性に優れていることが証明されているタイヤを販売しています。

お使いのフックレスホイールに合ったタイヤ選びでお困りの場合は、ENVEのタイヤ適合チャートをご覧になり、ENVEの推奨空気圧を必ず参照してください。
最後に、どのホイールやタイヤにも言えることですが、リムまたはタイヤに記載された最大空気圧を絶対に超えないようにしてください。そして、リムとタイヤの最大空気圧に差がある場合は、どちらか低い方に必ず従うようにしてください。

 

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