ASSOS MY SHORTS STORY VOL.3
サイクルウエアの革命児
文・サイクルジャーナリスト 吉本 司
サイクルウエアの革命児であり
その価値を広くサイクリストに説いた
冒頭から私事で恐縮ですが、先日、この4月末から始まったばかりの会員制自転車ウェブサイト「La Route」(ラ・ルート)にウエアの歴史にまつわる話しを寄稿させてもらいました(会員制ですけど良かったら見てください)。執筆に際してサイクリングアパレルについて改めて調べてみましたが、やはりアソスがウエアの進化に果たした功績は燦然と輝いています。きっと真面目な物作りをする、このスイスの人たちがいなければ、サイクルウエアの進化のスピードや方向性は異なるものになっていたでしょう。今、私たちが何気なく履いているライクラー素材のビブショーツも、当たり前になっている外気温別のウエア選びも、みんなアソスがその礎を築いたのです。近代サイクルウエアの父と言ってもいいほどの存在なのです。
歴代のチャンピオンに愛されたアソスウェア
そうした機能面での革新はもとより、もう一つのアソスの功績はサイクリストにサイクルウエアの重要性を改めて認識させたことでしょう。ひと昔までは、ハードウエア偏重型のサイクリストも多く、ウエアに財を大きく投じるような者はほとんどいませんでした。しかし90年代後半以降アソスは世界的に大きくブレークし、高機能なウエアがあれば快適なライディングができることを世界中のサイクリストに知らしめたのです。もちろん、それまでのウエアより値は張るものでしたが、その高性能を認めたサイクリストたちが一気にウエアにもお金をかけるようになったのです。ちょうど日本にアソスが本格的に入ってきたのはその頃で、当時の私は月刊誌の「サイクルスポーツ」で紹介するにあたり「サイクルウエアのファーストクラス」というキャッチコピーを付けさせてもらいました。
サイクルスポーツ誌でも現地取材を含め、度々特集された。
高級なウエアが何たるかを知っている
私がアソスに初めて出会ったのは1990年の冬だったと記憶しています。日本人ヨーロッパプロ選手のパイオニア、市川雅敏さんが当時所属していたスイスのプロチーム、フランクトーヨーに実際に供給されていたウエアの放出品でした。それが私の〝アソスヴァージン〟であり、このスイスブランドに恋をした瞬間だったのです。以降〝ビブショーツに第二の革命起こした〟というS2シリーズになる前の90年代中版から現在に至るまで、アソスの主要な製品は身に付けて、その魅力に引き込まれてしまいました。先新モデルはちょっとご無沙汰気味ですが、それでもバイクメーカーのフラッグシップモデルが買えるくらい、アソスには見事に散在させられたのです……。
アソスの魅力は股がキュッと上がるように的確にフィットして、この部分を捉え続ける快適性の高いビブショーツをはじめ、先のこのコラムで相原さんや浅野さんが記した通りですし、挙げれば切りがありません。
そうした評価もさることながら、私にとってアソスが素晴らしいと思えるのは、衣類そしてサイクルウエアとしての〝高級感〟というものが何であるかをしっかり捕えていることです。それは着心地でもあり見た目でもあり、タグやパッケージの設えまで、微に入り細にわたります。
着心地の面では他社と同じようなライクラーや裏起毛の生地でも、肌に対する当たりが柔らかで上質なのです。でもしっかりサポートしてくれる。着ていると常にウエアに包まれているような安心感と幸福感。高級な一般アパレルにあるような上質さすらあるのです。次に生地感。陳腐な言葉でしか表現できない語彙力のなさに辟易するのですが〝薄っぺらくない〟のです。軽量で薄手なウエアでさえ、目の詰まったようにも思える、重厚にしてしっとりとした独特な雰囲気を持っています。そしてタグやパッケージにしても、笑いたくなるくらい無駄に手が込んでいる時すらあります。実利に全く関係のない部分でもコストを投じることができるのは、高級ブランドの証であり、また彼らのプライドでしょう。
アソスに採用される独自に開発される上質な生地 (写真はウィンター用)
さらに重要なのが、こうした感覚が主要の商品となるビブショーツやジャージ、ジャケットだけでなく、レッグウォーマーやシューズカバーなどの小物に至る全て貫かれていること。概ね評価の高いブランドは、小物作りまで手を抜きません。それはこうしたアイテムが実はライディングクオリティを大きく左右することを知っているからです。さらに言えば、小物類にここまで力を注いでいるメーカーを私は知りません。アソスのウエアは他社に比べると値が張るでしょうから、なかなか本丸のショーツやジャケットに到達し難いサイクリストもいるでしょう。手始めにこうした小物にトライしてアソスの魅力に触れてみるのもいいでしょう。
老舗だからできる上質な世界観
この数年、新興ブランドが次から次へと登場して、サイクルウエアは玉石混淆の状態です。ウエア好きの筆者としては、知見を広めるためにちょっとアソスから浮気をして他社の製品も着てみたりしています。新興ブランドの中には、新感覚のデザインや視覚的なプロモーションを巧みに駆使して人気を獲得しているものもあります。そんな派手な振る舞いのブランドたちと比べると、アソスは控えめに映るかもしれません。しかし、ここ数年他社の製品を着てみて改めて分かったのは、アソスのような衣類としての高級感や上質さを備えているブランドはないに等しいのです。やはり未だ〝サイクルウエアのファーストクラス〟なのです。
少し前はまでは、アソスにはせっかくの高い技術力があるのだから、もう少し派手プロモーションをやったらいいのに……と思うこともありました。しかし最近、改めてそれは違うと感じています。アソスというブランドは、ちょっと大げさかもしれませんが、一般のアパレルブランドに例えるのならばエルメスのような存在なのかもしれません。流行に過度に流れることなく、自分たちが信じる物作りの本質を貫く。それが上質にして高級感のある世界を作り上げて行く。これは歴史のあるメーカーだからこそできる世界観なのです。私は最近、他のウエアブランドを着ることで、改めてアソスの魅力に気づきました。またアソスのウエアに身を包み、姿勢を正してライドに出かけたいと思う今日この頃です。
吉本 司(サイクルジャーナリスト)
月刊自転車専門誌サイクルスポーツの前編集長。現在は再びフリーのサイクルジャーナリストとして活動している。30年以上のスポーツバイク歴があり、ロードからMTBに至るまで全ての自転車遊びを好み、その機材の進化をつぶさに見てきた。Facebook ページ www.facebook.com/tsukasa.yoshimoto.58
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